大判例

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大曲簡易裁判所 事件番号不詳 判決

主文

被告人を懲役四月に処する。

但し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(犯罪事実)

被告人は合名会社刈和野製材所の代表社員であるが、昭和二十八年七月十日仙北郡強首村寺館尻引字寺館尻引七十九番地所在の八幡神宮鈴木寿秋から同神社境内に生立する同神社所有の杉立木(樹令百二、三十年位のもの)合計十六本を買受ける旨同人と売買契約を締結し、右杉立木の内五本を伐採したところ、同神社は右鈴木宮司のした売却処分行為を無権限に基く無効の行為となし弁護士阿部正一を申請代理人、前記合名会社刈和野製材所を被申請人とし、同年八月十二日同神社境内(二百八十坪八合四勺)に生立する杉立木に対し秋田地方裁判所の伐採禁止等の仮処分命令を受け同裁判所執行吏林茂夫が同命令に基きその頃

公示札

申請人八幡神社、被申請人刈和野製材所間の仮処分事件について左記物件は被申請人の占有をといて当職の占有に移したものであるから被申請人は此物件を伐採、造材及び搬出等一切の処分をしてはならない。もし之に違背し又は公示札を破毀する時は刑罰に処せられる。

仙北郡強首村寺館尻引字寺館尻引七九ノ一

八幡神社境内の杉立木及び杉丸太全部

昭和二十八年八月十三日

秋田地方裁判所執行吏 林茂夫

と記載した公示札を同神社境内に掲示したところ被告人は、これを知悉し、且つ現に右公示札の存置しあることを認識しながら同年十月下旬頃加沢多吉郎と共謀の上右林執行吏が右仮処分命令に基き占有する杉立木十一本を伐採窃取し、もつて同執行吏の施した差押の標示を無効ならしめたものである。

(証拠)(省略)

なお、弁護人は本件杉立木は杉丸太と共に警察において刑事事件の証拠物件として有効に領置されたものであり、その領置中即ち国家の占有にかかる本件杉立木等に対し執行吏が本件仮処分命令に基いてその執行を為したものであるから該仮処分の執行は違法であり、その効力を生じないものである。従つて本件犯罪は成立しない。仮りに右領置中の本件杉立木等が仮還付によつて、該杉立木等に対する本件仮処分執行の効力が生じたとしても、被告人は仮処分の効力を害することの認識がなかつたものであるから本件犯罪は成立しない。と主張するのでこれに対し次のとおり判断する。

元来執行吏は仮処分命令を執行するにあたつて、その目的物が第三者の占有にかかるものかどうかの事実につき形式上これを判断する職権を有するものであつて、執行吏がこの職権に基いて仮処分の被申請人の占有にかかるものと判定して、その仮処分命令を執行した場合は、たとえその目的物が領置中の物又はその他の第三者の占有にかかる物であつたとしても右の執行手続は取消されない限り法律上当然その効力を有するものと解すべきである。ところで、判示杉立木及び杉丸太は昭和二十八年八月四日刈和野警察署において被疑者鈴木寿秋に対する業務上横領被疑事件について被告人から任意提出によつて、これを領置したものであるが、その後同年八月十三日執行吏林茂夫は判示仮処分命令を執行するにあたりその職権に基き判示杉立木十一本を含む八幡神社境内に生立する杉立木及び同神社境内に存する杉丸太が同仮処分命令の被申請人たる合名会社刈和野製材所の占有にかかるものと判定して右杉立木及び杉丸太に対する右被申請人の占有を解き同執行史の占有に移したうえ申請代理人高橋進の承諾を得て田口専右エ門に対し右物件の保管方を託し判示の如く公示札を掲示したことが前示の証拠によつて認められるから判示仮処分命令に基いて右林執行吏のなした執行手続は固り法律上その効力を有するものであつて何等違法のかどはない。従つて弁護人の主張は採用することができない。

(法令の適用)

法律によると被告人の判示所為は刑法第九十六条、第六十条に該当すると同時に同法第二百三十五条、第六十条に該当し一箇の行為であつて二個の罪名に触れる場合であるから同法第五十四条第一項前段、第十条を適用して重い窃盗罪の刑に従いその刑期の範囲内で被告人を懲役四月に処する。しかし犯情等からみて、刑の執行を猶予するを相当と認め刑法第二十五条を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

なお、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に従つてこれを被告人に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。(昭和二九年四月六日大曲簡易裁判所)

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